あやかしびと感想

素晴らしい作品なのだけど、褒めるところだけではなく欠点もちらほら目立つ作品です。

・迫力ある熱い戦闘シーン
拳と刀、そして銃と人妖の力を用いた激しい戦闘シーンがこの作品の特色です。
Fateに影響されたのか戦闘に効果音や効果線が多く使われていて、流れるように読み進められます。nitro+で活躍されている原画の中央東口さんの画風が上手く生かされています。基本的に状況が一対一なので少年漫画風の正々堂々?とした戦いです。また、この作品独特の妖怪としての特殊能力も多い戦闘に変化を与えていて、同じキャラでも各ルートでいろいろな対戦相手が与えられるため、別のルートでは見られなかった戦法や強化した能力を楽しめました。燃える。

・大長編
脱走・日常・戦闘と簡単に三つにストーリーの流れに分けられるのですが、テキスト量が膨大で、しかし飽きることなく全編・全ルート楽しめます。実際、クリアするのにかなりかかるのではないかと。共通ルートの脱走編で世界感を知り、日常編で登場キャラに愛着を持ち、戦闘編で一気に爆発するといういい流れだといえます。導入部分は少し退屈かもしれないけど、主人公がメインで動き始める頃から段々と面白くなってくると思います。

名脇役多し
どの脇役にも必ず活躍の場が与えられていて、登場人物全てに魅力があります。ただ、愛野狩人などのあるルートでは活躍した脇キャラが別のルートでは全く存在感がないという使い捨てじみたところや、逆に虎太郎先生や会長のようなキャラが主人公の出番を潰してしまう展開になってしまうところが不満。といてかOPだけ見ると本当に小太郎先生が主人公に見えてしまう(笑)。主人公はがあまり能力を活用しようとしないから地味に見えるのかなぁ。

・九鬼耀鋼と氷鷹一奈
全ルートで語られる、自分の息子を殺した一奈に復讐するという九鬼の姿勢ですが、各ルートで部分部分の伏線を与える構成は良しとして、こう全編通して同じような展開をされると少しクドすぎる感があります。こういう裏の話は匂わせる程度でも良かったのではないでしょうか。ラスボスにしては使いまわしが多いので、刀子ルートのように逢難と融合した双七がラスボスであるよう他のルートにもラスボスに変化が欲しかったのいうのが贅沢な要望です。

・怪獣大決戦
ラストバトルはさすがにどうかと思っています。すずを取り返したあと一変かわって天との静かな会話(天の正体がここでわかる)になるところや、幻蛟の九尾を喰らって九尾の鬼となる九鬼耀鋼までは良かったのだけど、この選択肢後のトゥルーエンドになると、ここで主人公が妖怪になって自我をほぼ捨ててしまい、無機質な感情の大怪獣戦になってしまうところは今まで作ってきた流れをぶち壊しにしているようでテンションがダウン。最後まで「如月双七」として戦い抜いて欲しかったです。

・音楽
戦闘用の曲や古風な曲などいい音楽なのだけど、テキスト量に比べやはり種類が少ないのが欠点です。特に戦闘シーンは多いので、戦闘の質に合わせてもっと多い曲数を用意して欲しかった。


番外・主人公の正体
あやかしびとは人妖である主人公達がその先祖の妖怪によってどんな能力か左右されるという設定なのですが、他のキャラの元となる妖怪が次々と判明していくにも関わらず、主人公だけは最後の最後までその正体が判明しませんでした。金属を引き寄せる(操る)能力ということから中盤あたりでなんの妖怪か推理してみたものを公開します。

・鉱物に関係する能力
・長寿の妖怪である八咫鴉にもその先祖が読み取れない
・作品の全編通して「九尾の狐」、「八咫鴉」、「一奈」「一兵衛」、「一ノ谷」など数字を含んだ名前が多い

という伏線や「主人公らしく有名どころか?」という考えから主人公は製鉄の意味合いをもつ「八叉の大蛇」だと推測しました。※大蛇の吐く炎や草薙の剣はその当時では斬新だった金属を鍛える「鍛冶」を象徴しているといわれています

しばらく物語を進めて、智天使薬を使った前世のフラッシュバックで「ああ、これか」と自分の推理が違うことが分かり、実際のところは「憑喪神(つくもがみ)」でした。たしかに刀や自転車などと話すぐらいだから納得はできるのだけど、主人公にしてはかなり地味な妖怪だったのが意外でした。